日本の高山では、酸性雨の影響で松枯れが発生するとも言われていましたが、
松枯れのほとんどの原因は、マツ材線虫病 で、アメリカからの輸入材などに伴って、国内に入ったと考えられています。
独立行政法人森林総合研究所四国支所「マツとマツ枯れに関する質問と回答」を引用します。
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A1.:大いに関係があります。
マツタケはアカマツの根に寄生する菌根菌とよばれる種類の菌で,菌糸が地上に伸びてキノコになったものです。だから,マツが生えていないところにはマツタケは有りません。マッタケはマツが土から水分や養分を吸収するのを助け,代わりにマツから炭水化物をもらって生活しています。
A2.:マツタケがたくさん取れた昔の里山のようなマツ林にします。
マツタケがたくさん採れていたころのマツ林では,林の中の落ち葉を集めて堆肥(たいひ,落葉を腐らせた肥料)にしたり,枯れ枝や松かさを燃料にしていました。そのため,マツ林の土は養分が少なく,乾いていました。1950年代の終わりころから農村でプロパンガスが使われるようになり,落ち葉や枯れ枝が集められることがなくなりました。そのため,落ち葉がたまって,広葉樹が育ちやすくなり,林の中に低木や草がたくさん生えるようになりました。アカマツは菌根の助けが無くても養分や水を吸うことができるようになり,マツに寄生する菌が少なく,落葉に寄生する菌類が多くなってきました。マツタケ菌は,他のキノコ類や細菌との競争に弱いので,栄養分の少ない乾燥気味の土地でしか生き残ることができません.水分や栄養分の多い土地ではライバルが多いからです。
そこで,マツタケをたくさん発生させるには,マツ林の下に生えている低木や草を刈り取り,落ち葉を集めて取り去ってやります。こうして,土の養分をへらしたり,地面を乾きぎみにします。昔の里山では落ち葉を肥料として利用し,他の雑木(ぞうき)を薪(まき)として切っていました。そのため,マツタケにとって住みやすい環境が作り出されていたのです。またマツタケは,ふつう20年生くらいのマツ林で発生をはじめ,30~40年生あたりがいちばん多く,その後は少なくなります。これはマツの根の元気さに関係あるようです。ですから,山の尾根部の若いマツ林の下生えを刈り取り,落ち葉を取り去る作業を何年も続けるのが,マツタケをつくる早道と言えるでしょう。
A3. いいえ、現在の日本では見つかっていません
植物が生きていくためには葉の気孔を通して二酸化炭素を吸い,酸素を出すことが必要です。このときに有害なガスも葉の中に入ることは防げません。だから,大気汚染が大きな問題となっていたのです。
↑酸性雨の原因となる硫黄酸化物の濃度変化,1970年代の前半までは大きな問題
酸性雨というのは,大気中の有害なガスが雨の中に溶けて地上に降ってくることです。雨で有害ガスが洗われて,空気は元どおりになります。1970年ごろのヨーロッパでは大気汚染(たいきおせん)が国境を越えて遠くに運ばれ,空気がきれいなはずのスカンジナビア半島に酸性雨を降らせました。そのため,湖や河川の水が酸性になり魚が住めなくなりました。そのころ,トウヒやモミ,マツなどの樹木が弱ったり枯れた現象が各地で見られたことから,酸性雨のせいではないかと言われたのです。そこで,森林が枯れる原因について各国で研究が進められるとともに,国際協力によって,大気汚染と森林衰退の監視(モニタリング)が1985年から開始されました。日本でも1990年から,林野庁と各県の林業研究機関が協力して「酸性雨等森林衰退モニタリング事業」をおこない,森林の健康状態を監視しています。 10年以上にわたるヨーロッパでの調査の結果,大気汚染が特にひどかった東ヨーロッパの一部地域では大気汚染による害が認められましたが,異常気象による乾ばつや低温が大部分で,虫害による被害などもあることがわかりました。モニタリング調査のうち,葉の量を眼で見て判断する調査が最も詳しく行なわれています。この結果によると,ヨーロッパの森林の半分以上では,何らかの原因で葉が少なくなっていますが,樹木の成長は悪くなってはいないそうです。現在の酸性雨はイオウ酸化物よりチッソ酸化物の割合が多く,チッソ化合物が肥料となって樹木の成長が良くなるため,寒さや干ばつの影響を受けやすくなっているのではないかとも言われています。
日本で行なわれている全国的な調査結果でも,大気汚染や雨水の酸性化が原因と考えられる森林や樹木の衰退は見つかっていません。森林や樹木の状態が良くないとみられる場所でくわしい調査を行なった結果では,台風による被害,乾燥による害,病気や虫害,野生のシカによる被害など,場所によって異なる原因が明らかにされています。
>>>引用終わり。
奇しくも、A2.では、マツタケを復活させる結論が既に出ていますが、
皮肉なことに、A3.の、現在の酸性雨はチッソ化合物が肥料となって樹木の成長が良くなるという状況下では、
マツタケが好むチッソに乏しい土壌ではないという現状があるということになります。
空気中のCO2を固定するのは、植物の光合成だけではない に、酸性雨について書いています。
文中にある「酸性雨の目安がPH5.6」というのは、
空気中CO2濃度世界平均(405ppm)でも、CO2が雨に充分に溶けると、炭酸イオンCO3 2- でPH5.6になるので、
炭酸だけなら、最小PH5.6が閾値ということになります。
CO2以外の原因(NOx:硝酸やSO2:硫酸)による酸性雨の影響が疑われるということになります。
硝酸>硫酸>水酸>塩酸>シュウ酸>葉酸の順で、酸が強い
現状、2014年3月に環境省から発表された越境大気汚染・酸性雨長期モニタリング報告書(環境省, 2014)に以下のようにまとめられています。
これによると、平成20年度から24年度における降水pH の地点別年加重平均値(平成20年度末で休止の地点を含む)の範囲は4.48~5.37であった。
全地点の5年間のpH 加重平均値 (平成20年度末で休止の地点を除く)は4.72 であり、
降水pHは引き続き酸性化した状態であることが認められたと報告しています。
酸性雨の影響下では、土がPH5.5以下になると、土中のアルミニウムが溶出します。
「炭は地球を救う」宮下正次 という著書で宮下さんは、
間伐材などを山の炭釜(穴を掘ってトタン板と土を被せて、
間伐材を蒸し焼きにするというシンプルな構造)で炭にして、土壌に撒くことを実践し、酸性雨を中和して、山を復活させてきました。
著書の中で、炭を撒いた山に実際に針葉樹林やマツタケが復活しています。
宮下さんは、2016年11月に亡くなりました(享年72)。
酸性雨による針葉樹林の中和剤として、間伐材で作った炭を撒くのは有効です。
徳島県立農林水産総合技術センター 森林林業研究所 技術情報カードNo.28およびNo.7
によると、
木炭の特性と土壌改良効果 として
1.土壌の通気性、保水性、透水性及び保肥力の向上
2.保温効果
3.土壌微生物の増加
4.酸性土壌の矯正
5.ミネラル分の補給
が挙げられています。
森林林業研究所での試験例 では、
試験結果として、木炭を土壌容積に対して10%~20%混合した場合に、無処理の場合に比べて成長量が大きく
30%混合した場合は、無処理の場合に比べて成長が抑制されるという結果が出ています。
個人的発想ですが、酸性雨対策で「炭は地球を救う」のであるなら、
酸性雨の原因である石炭発電や製鉄の副産物つまり、アルカリ性のコークス灰(フライアッシュ)を、山に運んで撒けば、酸性雨を中和するのではないかと考えます。
※1
石炭産業から、環境修復税として、フライアッシュを山に撒く費用を捻出させたらいいのではないかということです。
しかし、近年、石炭産業においては、石炭の煙の脱硫が行われているので、昭和40年代のように、酸性雨は硫酸ではなく、
現代の酸性雨には、硝酸が比較的多いので、チッソ分を好む植物にとっては、菌根菌や根瘤菌の助けが無くても、硝酸態チッソが空から降ってくるという状態です。
硫酸や硝酸を含む酸性雨はマツタケにとっていずれもアゲインストだという結マツになります。
※1
僕は海洋深層水で漬物を漬けている(アーサーバイオブログ)の中に書いている、海水からNaClを分離したあとのMg,Ca,Kなどの残っている水を材料に、熱中症予防ミネラルサプリを作っている。というのと同じ発想です。
元来、生物の根源たる海があって、そこからNaClだけを分離して利用していたのだが、実はNaClを分離したあとの水が、ミネラルサプリとして有効であり、
化石植物由来の石炭から、熱量だけを利用したあとのフライアッシュは、石炭燃焼の際に排出される排ガス由来の酸性雨の中和に有効である筈だということです。
もう一つ言えば、山の炭窯で間伐材などを蒸し焼きにした際に出る煙は、酸性雨の原因になるのではないでしょうか?
同様に、木酢液や竹酢液を、畑に撒くと良いという発想は、間違いではないでしょうか?
マツタケの復活へ施策 篠山市が補助事業や研修会
おまけ
マツ枯れ,松くい虫についての知識が得られるウェブサイト,ページ (順不同)
徳島県立農林水産総合技術支援センター森林林業研究所 技術情報カード No.31 松くい虫防除の時期と方法 ~知ってるようで知らない“松くい虫”の不思議~
愛林通信 (愛媛県今治地方局産業経済部林業課) 松くい虫とは?
兵庫県 農林水産部 治山課 松林を松くい虫から守ろう(被害の推移,松くい虫とは,マツを守る!!,Q&A)
岡山県 林政課 業務一覧表 松くい虫の被害対策
島根県環境生活部景観自然課内 築地松景観保全対策推進協議会事務局 ついじまつ
沖縄総合事務局 松くい虫被害からリュウキュウマツを守ろう!! (沖縄県松くい虫被害対策)
森林総合研究所九州支所 研究成果普及シリーズ マツノザイセンチュウの2種類の変異
鹿児島県森林技術総合センター マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ採種園の種子生産性と家系特性
茨城県林業技術センター 樹木病害虫 マツ材線虫病
石川県林業試験場 いしかわ 森林図鑑
かけがえのない森林を守る 松くい虫に強い抵抗性マツの選抜育種
福島県 農林水産部 森林整備課 マツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ
長野県松本地方事務所林務課
宮城県 産業経済部 森林整備課 松くい虫被害と対策
文責 野村龍司