「マツタケ人工栽培究極の会(5年計画)」が、2017年7月に 京都で発足し、その会員の末席に入れて頂きました。
メンバーは、大学を退官された名誉教授や、滋賀県林業試験場OB、
京都府林業試験場OB、薬学・医学・病理学・林学の専門家の方々で、
マツタケ/人工栽培で検索すると、論文執筆者でヒットするような偉い先生方です。
僕は一応コンポスト(堆肥作り)を少々やっているという立場での参加です。
さて、そのような「専門家の方々が50年もやってきて、未だ成功していないことを
これから5年計画で、果たしてできるのか?」という素朴な疑問があります。
発起人の藤田博美さんがおっしゃるには、5年計画の意味は、
会員の年齢が高齢化して 尚 途半ばで
時間が残されていない見果てぬ夢だからだそうです。
つまり、単なる願望に過ぎません。
マツタケ菌を単離して培地に植え、
コンタミ(不純物)を完全排除して殖やしても、
いわゆる子実体(キノコの形)にまでならないのは、何故か?
一方、自然状態で、20年~30年生のアカマツ単純林
(広葉樹などの樹木が混ざっていない林)で、
貧栄養(落ち葉が松葉以外に無い赤土の裸地)で、
土壌のPHは5.5程度の弱酸性、雨の多い秋に自然に大量発生することは
判っています。
生きた松の根で、しかも樹齢20~30年の根方に生るということで、
松とマツタケ菌とは共生関係
(外生菌根菌:相互に物質交換をして根に菌套を形成する関係)にあり、
さらに別の菌が絡む3者共生の関係にあるとも言われています。
共生者不在の単離培養では、子実体まで稔らないので、そこにヒントがあるのではないかと考えられます。
また、マツノザイセンチュウやカシノナガキクイムシと同じく、
若木には生らないので、抵抗力の落ちた成木で発症する一種
感染症のようなものだと考えられています。
↓アカマツの根を覆うマツタケ菌のハルティヒ・ネット(HN)
右; アカマツの細根部が白色の菌糸(矢印)に覆われています。この状態を菌套といいます。
左: 細胞間隙に菌糸が侵入してハルティヒ・ネット (HN) を形成しています。
Ectomycorrhizae formed by T. matsutake on roots of Pinus densiflora.
世の中に、1種の菌だけを単離して培地に植えて、その振る舞いを研究している研究者は多数いらっしゃいますが、
複数の共生菌の関係を研究課題としている研究者は驚くほど少数です。
もしかしたら、コンポストを少々かじっている僕の意見が聞いて頂けるかもしれません。
「一般に混合系では、1種の菌が10の6乗個/グラムの菌数に達すると、
その菌の活動が飛躍的に活発になると言われています。6けたの法則」
ということを申し上げると、太田明先生(単離培養の第一人者)がメモをとられていて恐縮しました。
話変わって、或る大手有名予備校の話です。
4月の最初のガイダンスで、熱気に満ちた浪人生を前に、講師が次のように言うそうです。
「君たちは、何故ここに居るのか考えてみて下さい。・・・
君たちは敗残者です。おそらく 現役受験生の時のやり方が 間違っていたんです。
だから、来春までの1年間は、つべこべ言わずに私の言うことを聞きなさい!
これまでのやり方を捨てて ついて来ることができたら、君たちは必ず成功します。」
僕はこの話をマツタケの人工栽培の話に当てはめて、これまで50年やってきたような大家の面々を前に、次のように述べる勇気がありませんでした。
「あなた方は、何故『マツタケ人工栽培究極の会』に参加してここに居るのか 考えてみて下さい。
おそらくこれまでのアプローチが間違っていたのです。
だから 私の言うとおりにやってみなはれ!」と。
予備校の講師は解(ソリューション)を持って指導をしますが、僕には解が無くて、
恐らく マツタケの人工栽培において これまでのやり方を踏襲するなら
やはり失敗するだろうな、という予感だけがあるのです。
文責 野村龍司