アーサーバイオブログより転載
マツタケは、担子菌の中でも、腐生菌ではなく、菌根菌です。
腐生菌は、シイタケ・マッシュルーム・ふくろ茸・エリンギ・ナメコ・サルノコシカケ・霊芝などで、木材腐朽菌です。
菌根菌は、マツタケ・トリュフなどに代表され、森林の地上に発生し、菌根を作って植物と共生する菌類のことです。
日本には、菌類が約10,000種類あり、菌根菌と腐生菌が各5,000種類づつあります。
土壌中の糸状菌が、植物の根の表面または内部に着生したものを菌根と言います。
共生の形態から植物の根を包み込み鞘状の菌糸を形成する外生菌根菌と、根の内部で伸長する内生菌根菌に大別されます。
いつから共生が始まったのかは不明ですが、4億年前の化石から発見されたとの報告があります。
特定の植物とのみ共生をする種もいれば、アーバスキュラー菌根の様に多くの植物と共生を行う種もいます。
森林の地上に発生するキノコは、多くが菌根菌です。
主なものは、マツタケ、アミタケ、ショウロ等があります。(トリュフはショウロの一種で、セイヨウショウロとも呼ばれます)
これらの例は宿主がすべてマツですが、コナラやシラカバが宿主のものもいるし、様々な木と菌根を作るものもあります。
なお、高級食材として知られるトリュフやホンシメジも菌根菌で、腐生菌と比べて、人工栽培が難しいです。
↑大黒ほんしめじ(瑞穂農林の生産)
マツタケと同じ菌根菌のホンシメジの人工栽培
菌根菌であるため、これまで栽培ができず希少でしたが、菌床人工栽培が可能になっていて、菌床栽培品が2004年から市場に流通しはじめています。
①菌床栽培:1999年タカラバイオ・ヤマサ醤油などにより、一部の菌株が菌根菌としては例外的にデンプンを分解できる性質を利用し、赤玉土と大麦などの穀物粒を主成分とした菌糸瓶法などによる人工栽培が成功しています。
菌糸は窒素と鉄の要求性が高く、炭素源は単糖類の他にデンプンも利用できる。至適成長 pH は 5.4前後とされます。
また、栽培経費の低減を目的としてトウモロコシ粉とブナオガクズを用いた培地での試験栽培において、
子実体(キノコ)を発生させることに成功していますが、米ぬかを培地とした場合は栽培に失敗しています。
②林間栽培:樹齢15 – 25年程度の若いコナラやアカマツなどの林で、低木や草、落葉の除去を行う。
更に発生率を高めるために、苗木に培養菌糸を感染させて未発生林に定植し、菌根を形成させて子実体を発生させる。
③鉢栽培:取り木(幹に傷を付け樹皮を剥き、ミズゴケなどで包み発根させる方法)により育成したアカマツの苗木を、純粋培養した菌糸塊とともに植木鉢に植え子実体を発生させる。
以上、ホンシメジの人工栽培です。トリュフでは、↑の林間栽培に成功しています。
タカラバイオは、上の大黒本しめじの栽培施設を、雪国マイタケに売却しました。
タカラバイオは、きのこ事業では、常にフロントランナーでしたが、販売網などでノウハウのある雪国マイタケに事業譲渡したのです。
キノコ栽培よりも、バイオ医療関連のマーケットが大きい(2022年に世界で22兆円)という事情があります。
キノコ栽培実験における人工栽培は、医学薬学バイオテクノロジーの分野に例えるなら、
腐生菌がin vitro(イン・ビトロ)で栽培可能なのに対し、
菌根菌はin vivo(イン・ビボ)でないと栽培不可能ではないか?と考えます。
以下in vitroとin vivo
in vitroとin vivoは、バイオ系の用語です。
in vitro(イン・ビトロ)とは、“試験管内で(の)”という意味で、
試験管や培養器などの中でヒトや動物の組織を用いて、体内と同様の環境を人工的に作り、薬物の反応を検出する試験のことを指します。
分子生物学の実験などにおいて用いられます。
in vitroの語源はラテン語で「ガラスの中で」という意味です。※1
培養器内の培地や試験管内の内容物の種類や量がすべて明らかで、分からない条件がほとんど無い場合に特に有効です。
in vivo(イン・ビボ)とは、“生体内で(の)”という意味で、
マウスなどの実験動物を用い、生体内に直接被験物質を投与し、生体内や細胞内での薬物の反応を検出する試験のことを指します。
in vivoの由来はラテン語です。特に非臨床試験(前臨床試験)において用いられる試験です。
in vivoでの試験の場合、実験の条件が人為的にコントロールされていない、という意味になります。
例えば細胞内での反応などが当てはまります。
生化学や分子生物学などの分野において、生体内で反応が起きていることを、
対義語であるin vitroと対比するためにin vivoとつけて示すことが多いです。
【in vitroとin vivo】
in vivoとin vitroの区別は専門分野で異なり、例えば内分泌や環境化学等の暴露実験では、
マウス等に直接薬品を投与をした場合にin vivoという表現を使用し、
組織や細胞をシャーレや試験管で暴露させた場合に、in vitroという表現を使用します。
また、細胞生物学や分子生物学の分野では、培養した細胞を扱えばin vivo、
細胞から取り出した細胞内器官や物質を扱えばin vitroという場合が多くなります。
どこまでを生命と見なすかの違いによって区別されます。
マウスや生体の実験で「in vitroでは血流(blood flow)が全く無く、一方in vivoでは血流がふんだんにある」ということです。(以下略)
ここまで、しっかり読んでくれた人は、お分かりだと思います。
in vitro(木材腐朽菌:菌床栽培可能)とin vivo(菌根菌:樹根共生)の違いは、
血流(植物の樹液の流れ)があるかどうか、そして土壌からのミネラル供給(鉄・硝酸態窒素・リン他)の有無です。
⬆︎の大黒ほんしめじも、鉄分と窒素(化合物)の要求性が高いとあります。
また、デンプンを分解できるシメジは、菌床栽培が可能ですが、それがシメジかどうかという問題があります。
デンプン(トウモロコシ粉)を分解できる大黒ほんしめじは、菌根菌よりも腐生菌に近いと言えます。
だから、大黒ほんしめじは菌床栽培が可能なのです。
僕は 菌床栽培のハタケシメジ・大黒ほんしめじ・ヒラタケいずれも食べて、甲乙つけ難く美味いので、
そもそも、デンプンを分解できるシメジの系統を発見固定しただけでも、すばらしい研究成果だと思っています。
また、各種の穀物を試して、トウモロコシ粉や大麦粉が適しているという発見も立派です。
針葉樹(杉間伐材)のウッドチップに散水して、何ケ月もかけて、キノコの成長阻害物質を取り除く方法も確立されていて、輝かしいエポックです。
第11回は平成31年1月12日で、瑞穂農林㈱を見学し、瑞穂町質美の世界一マツタケを獲った名人(約10万本)を訪問した後で、新年会をしました。世界一マツタケを獲った岩田哲氏(78才)は、かつてマツタケを売った収入で学校を建てたり、公民館を建てたりしたそうですが、全く穫れなくなって、現在、家の隣のハウスで、シイタケの菌床栽培をされていました。
第12回の平成31年3月2日は、昨年末に植菌した試験地2の松に、才村さんのご指導の下、樹幹注入をしました。↓
↑野洲市のウツクシマツ樹幹注入の例
↓試験地2に新たな松を植えて植菌をしました。
今後、「マツタケ人工栽培究極の会」の活動記録や、各種の資料、
これまでの知見を、ウェブ上に保存して、記録を残しておく事を提案します。
※1
vidro(ビードロ)は、ポルトガル語でガラス。ビー玉もポルトガル語が語源だと思います。
※2
遺伝子組換え技術によりBtタンパク質を作る性質を持ったBtトウモロコシが開発された。
Btコーンには、害虫以外にも殺虫効果があるので、生物多様性を破壊するという環境問題やTPPスタンダードの問題がありますが、
マツの木との共生菌であるマツタケを、従来分解能のあるセルロース・リグニンに加えてデンプンなど多糖類の木材腐朽菌としてスカベンジャーに遺伝子を組み変える事に、
何らかの問題や法の規制などはあるのでしょうか?
文責 野村龍司